映像プログラム — まなざしの反転 <その痕跡と兆し>
あなたのカラダで、上映される作品群をまるごとのみこんでみよう。出会うはずのなかったコト・モノが渦を巻き、無数の星々が突如、像を結んで見えるように、新たな何かが響き出すかもしれない。
反乱の証言
「物語とは何の役のたつのか。出来事を待ち望み、それを構築しなければならない者の境遇に、ぼくたちの身を置き直すためさ。ここでこそ、マルチチュードは、マルチチュードの想像力の一切は、運動しているんだ。」
ネグリは、イタリアパトヴァに生まれ、後にパリで思考を鍛え、言葉をつむいだ。彼は『<帝国>』をはじめとする著書において、マルチチュードによる自治、すなわち特異性の増殖と協働という新たな構成的権力への移行を描いている。グローバル化に伴う脱領土化が叫ばれて久しいものの、具体的な活動は、時と場所による特異性を孕んでいる。そこで本上映会ではネグリの描く地図を片手に、日本の有象無象の民による運動の痕跡を見つめ直してみたいと考えた。
とはいえ、ここでは日本の運動史を包括するようなプログラムは目指していない。上映される作品群は60年代以降のいくつかの場所における活動の記録や記憶の断片である。67年高崎経済大学にて、学生側の視点からストライキによる権力との対峙を捉えた小川伸介は、その後辺田部落に住まう中で、成田空港建設をめぐる「闘争」のもとに揺れる人々の表情を、若者・老人・家族・集落など様々な角度から描き出した。改めて上映作品群を見てみると、運動を捉える視線そのものがカメラの単眼性から逃れ、複眼性を孕む物語へと向かおうとしてきた様がうかがえる。
ネグリを知った私たちがこれらの作品に触れることは、<今ここ>における特異性の増殖と協働を考える手がかりになるのではないだろうか。
- 「圧殺の森」(3月30日(日)14:00〜)
- 監督:小川伸介/撮影:大津幸四郎/105min/1967年/製作:自主上映組織の会
高崎経済大学学園闘争の記録。不正入試問題に対して、抗議行動を起こしてバリケードに立てこもる学生運動家たち。大学の10年にわたる不正入学・市当局の学校運営への度重なる介入など露骨な弾圧に対し、全学ストライキで権力と対峙する様を、学生側の視点から捉えた作品。 - 「三里塚 辺田部落」(3月29日(土)14:00〜、3月30日(日)19:00〜)
- 監督:小川紳介/146min/1973年
成田空港の建設に反対する農民運動を捉えたドキュメンタリー。荒々しい闘争が直接に描き出されるのではなく、三里塚の農民と共に生活しながらカメラを回すことで、闘いの中の日常が捉えられていく。 - 「素人の乱」(3月29日(土)17:30〜、3月30日(日)19:00〜)
- 監督:中村友紀/80min/2007年/http://trio4.nobody.jp/keita/eiga/index.html
高円寺に居を構える松本哉(素人の乱5号店店主)にまつわるドキュメンタリー。高円寺3人デモから杉並区議選の出馬へ。松本を取り巻く人々の渦の中で、興奮と熱狂に踊るのはマルチチュードかプレカリアートか。 - 「山谷(やま)—やられたらやりかえせ」(3月29日(土)17:00〜、3月30日(日)13:30〜)
- 監督:佐藤満夫、山岡強一/110min/1985年/英語字幕/提供:「山谷」制作上映委員会
1983年、日本国粋会金町組一家西戸組が、山谷争議団に対し武装襲撃をかけ、以来一年余りにも及ぶ闘争が繰り広げられた。2名の監督が暗殺された世界でも稀な、流動する下層労働者の記録。 - 「幽閉者」(3月29日(土)19:00〜、3月30日(日)19:00〜)
- 監督:足立正生/115min/2006年/http://www.prisoner-m.com/
テロリスト「M」は、1972年リッダ空港襲撃事件主犯の一人である岡本公三がモデルである。襲撃後、一人生き残ったMは捕らえられ、「豚の飼育」と呼ばれる人体実験を受ける。終わりのない拷問の中でMは次第に深い内省へと沈み込んでいく。 - 「LEFT ALONE」(3月29日(土)16:30〜)
- 監督:井土紀州/205min/2005年
68年生まれの監督による68年をめぐるドキュメンタリー。前半ではニューレフトの誕生から安保闘争に至る過程、後半では68年革命思想と暴力という問題から、現在の大学再編と自治空間解体に至るまでのニューレフトの行方を、すが秀実・松田政男・柄谷行人らとともに語らいながら、多角的に検証していく。
特異的凡庸
「芸術は、いまや、マルチチュードの諸実践のなかの、ありとあらゆるところに存在する」
一般家庭にもフィルム撮影機材が普及しつつあった時代に登場してきた自主映画作家たち。彼らは既存の映画文法を土台としながらも、次第に、低予算を逆手に取った機動性や個人的主観の暴走といった、自主制作だからこそ可能なスタイルを築き上げていく。
結果、従来ノイズでしかなかった映像が新たな表現の方法となり、映画をはじめとする作家性の認められた映像表現との境界が融解してきた。例えば山崎幹夫の「りりくじゅんび」は、はたして“作品”と言えるのだろうか。
こうして見ると、映像に於けるノイズの代名詞であり、いまだ語る言葉を見出されていないホームムービーに対する見方も変わってくる。その画質や手ブレ、表現以前の欲求に基づいた撮影者のまなざしは一見、凡庸で見るに耐えない。しかし幾許かの忍耐と細心の注意を以て凝視してみれば、そこには撮影者の特異的な身体の痕跡が現れる。見たものと見ようとしたもの、見ざるを得なかったもの……雑多な感情が渾然一体となり焼き付けられたその眼差し、カメラを持つ手の震え、歩行・移動のリズム、息づかいが映像に与える微細な振動。類型化を許さない生の煌めきだ。
- 「銀河系」(3月30日(日)17:30〜)
- 制作・監督:足立正生/75min/1967年
「白いドレスの女」「黒い服の山伏」「影」といった断片的な形象が物語を紡ぐ物語。”パレスチナ”以前、日大映研時代の足立正生による自主制作映画。 - 「個人映像集団「化粧」(kesou)セレクション」(3月30日(日)15:30〜)
- 制作:個人映像集団化粧(オムニバス)/50min/2002-2006年
映像表現を、日常生活や隣人との会話の延長と捉え、上映活動を行ってきた個人映像集団「化粧」のメンバーによるオムニバス。 - 「リビングルームシネマ」(3月29日(土)14:00〜、3月30日(日)16:30〜)
- 制作:CHM(オムニバス)/120min/1928-1998年/提供:映画保存協会
それぞれが家庭に眠るフィルムを持ち寄り上映するイベント「ホームムービーの日」。そこで上映された作品の中から、国や時代を越えてセレクトされた22本のオムニバス。 - 「りりくじゅんび」(3月29日(土)16:10〜、3月30日(日)18:30〜)
- 制作:山崎幹夫/10min/1987年
学童クラブの子供たちに8mmカメラを持たせ、彼らが好きに撮影した映像を山崎幹夫が編集。子供たちと山崎、それぞれの眼差しがひとつの画面上に戯れあう。
マルチチュードの身振り
「ぼくたちがたびたび議論してきた唯一の領域であるこの抽象の領域において、どうやったら出来事を構築できるのか、あるいは、単純に、どうやったら出来事を思考することができるのか。(中略)どうやったら存在の超過に接近することができるのか。その待機に、その実現に。」
マルチチュードという概念は、アントニオ・ネグリによるこの世界の表現であり、だが自らがマルチチュードと表現するこの世界にネグリもまた規定されている。表現するということは、思いに耽るだけでは足りず、また観察に耽るだけでも足りない、絶えず片方を中断しもう片方へと向かうそのくり返し、内省と傾注の間を絶えず行き来するそのくり返しなのだ。それは逃れられないことであるがゆえに途方もない労苦であり、まただからこそ表現することの自恃の念ともなりうる。
ここに紹介するのは、そのような内省と傾注との往還が、結果としてマルチチュードの諸形式をわれわれに垣間見せてくれる作品である。「自転車で行こう」では、主人公が共同体のルールを逸脱していることと、彼を「媒介」としたネットワークが機能していることとの間にある奇妙な矛盾が、杉本の戸惑いを隠さない制作態度によって描き出されていく。一方ジョナス・メカスは撮影からある程度の期間を置くことで、1秒24コマという否応のない時間の均質化のうちに開かれたイメージ、他のどの日とも、どの瞬間とも変わらないその日、その瞬間のうちに開かれたイメージをスクリーン上に横溢させてみせる。これらはつまり、マルチチュードの身振りそのものであり、この世界と映像表現とに対峙する、カメラを構えた、またカメラに規定された生であるのだ。
- 「自転車で行こう」(3月29日(土)19:00〜、3月30日(日)16:00〜)
- 監督:杉本信昭/115min/2003年/英語字幕/http://www.montage.co.jp/jitensya/
おしゃべりの自閉症在日青年プーミョンと、大阪の地元コミュニティーの共生の日々。 - 「富士山への道すがら、わたしが見たものは…」(3月29日(土)15:00〜、3月30日(日)18:00〜)
- 制作:ジョナス・メカス/24min/1996年
1983年、1991年の来日の際に、愛用のボレックスで撮った東京、京都、奈良、大阪、福岡、帯広、山形。メカスの見た日本の風景、日本の友人たちとの語らい。メカスの日本映像日記。
ネグリ氏関係映像
- 「終わりなき反逆」(3月29日(土)14:00〜、3月30日(日)13:30〜)
- 制作:A・ヴェルツ、A・ピッヒラー/53min/2003年/英語ナレーション・英語字幕
ネグリ氏を追ったドキュメンタリー。2003年4月の釈放後行われたネグリとのインタビュー、セミナーや抗議デモでの演説の様子。彼の共著者マイケル・ハートやイタリア人やフランス人の仲間のコメントなど。 - 「鉛の時代」」(3月29日(土)20:00〜、3月30日(日)14:30〜)
- 歴史ドキュメンタリー/50min/2002年
ネグリ氏へのインタビューも収録。
医療関係映像
リハビリテーション治療を中心とした新しい科学、哲学、芸術の総合的映像。
フェリックス・ガタリが働き、精神病の先進的な治療で知られていたラボルド・クリニック。そこで踊る田中泯と、彼を見つめる住人たちを捉えた記録映像。日本初公開。
WEBテーブル
映像の楽しみ方は、劇場やリビングでだれかと空間を共有しながら見るだけとは限りません。今や完全に日常的卓上エンターテイメントとして一般化した動画共有サイト中から、ネグリ・デングリ参加者が選んだマイ・リストを紹介します。
WEB: http://video.multitude.jp/table/
映像セルからのお知らせ
- 2008.03.29
- 追加上映:沖縄県東村高江の記録
- 2008.03.28
- 「りりくじゅんび」上映時間・会場の変更について
- 2008.03.11
- 上映プログラム「マルチチュードの身振り」
- 2008.03.11
- 上映プログラム「特異的凡庸」
- 2008.03.11
- 上映プログラム「反乱の証言」



